趣意書2
非戦の活動
1.地球的危機の到来
2001 年 9 月 11日の同時多発テロ事件以降、世界は重大な地球的危機を迎えている。イスラーム過激派によるテロ行為は、人命の犠牲をもたらすが故に非難されるべきであり、これに対しては重大犯罪として刑事的な摘発・処罰・取り締まりが国際的になされるべきである。
しかし、こうしたテロ行為を戦争と規定し戦争で報復しても問題は解決せず、さらに多くの無事の犠牲者を招く。暴力は暴力による報復という悪循環を招き、事態を悪化させてしまう危険がある。また、ブッシュ政権は、テロ組繊だけではなくそれをかくまうクリバーン政権も敵とみなして攻撃対象としたが、この「反テロ」戦争の論理は、倫理性も合法性も欠いている。
単独行動主義の姿勢が際だつブッシュ政権は、いわば「アメリカの新帝国主義」とでも言うことができるような横暴な姿勢を示し、徒に戦争を開始し拡大させる道を歩んでいる。これによって本当に「文明の衝突」のような大戦乱が生じることを私達は深く危惧し、日米政府はもとより、世界の公論に対して、「文明問の対話」と非戦の重要性を訴えたい。
およそあらゆる戦争は悪と見なすことができるが、必要悪としてその正当性が主張されることが多い。しかし、この「反テロ」世界戦争は必要悪ですらなく、地球的に甚大な人命の犠牲をもたらす地球的悪そのものである。さらに、核戦争は「絶対悪」と呼ぶことができるのであり、核戦争という絶対悪を回避することは私達の最大の願いである。
それにも拘らず、アメリカ政府を中心として多くの政府が戦争を支持し、日本政府もアフガニスタン戦争においてはテロ特措法という違憲立法を行い、第2次世界大戦後、最初の参戦行為・海外派兵を行った。イラク戦にあたってもイラク特措法の立法や戦争への協力が政府部内では検討されている。
2. 新しい平和運動の形成
そこで、私達は、「反テロ」世界戦争という地球的悪に反対し、平和の回復・実現という地球的公共善を達成することを目的として、新しい平和運動を形成したいと考える。
戦後の平和運動は、敗戦という経験に基づき、平和憲法の理念を堅持するために重要な役割を果たしてきた。しかし、共産主義・社会主義イデオロギーの硬直性、一国平和主義、経済至上主義・生活保守主義、沖縄の要塞化、独善的啓蒙主義・理性主義などの問題も存在し、戦争経験を持たない若年層には訴える力は衰弱していると言わざるを得ない。
そこで、私達は、「地球的公共善としての平和」という地球平和公共哲学の観点から、宗教的・哲学的・倫理的・芸術的要素を重視して、新世紀にふさわしい新しい非戦平和運動を創造的・生成的に展開することを目指す。
これは、内村鑑三以来の伝統を持つ「非戦」の思想を運動として展開することをも意味しよう。かつて丸山眞男が主張したように、内面的・文化的蓄積に立脚した「非政治的市民の政治的活動」が必要なのであり、私達は生活世界に根をおろした生活者市民による「小政治」の実践、深い精神性に立脚した公共民(公共的市民・農民・漁民など)の新平和遽動として展開したい。
地球的危機の時代に平和を実現するためには、現代世界を覆う政治的無関心・無気力の壁を突破して、公衆の良心・良識に基づいた実践的活動が必要である。私達は、ガンジーなどの先例にならい、アーレントが主張したように、言論や討論に基づく平和的な活動を非暴力的に行うことを決意する。
このような活動を自ら行うためには、一人一人の智恵と勇気・力が必要である。そして、このような運動の動機は、戦争の死者・犠牲者をなくそうとする愛である。運動が闘争的・破壊的なものにならず、批判対象をも救うような建設的なものとなるためには、優しさと愛が必要であろう。愛と知と勇気を備えるように努めながら具体的な活動を遂行するのが、今日における公共民的美徳(civic virtue)であろう。この意味において、平和運動自体が美徳を滴養する人格形成と練磨の場でもあり得るのである。
従来の平和運動が重苦しく闘争的な雰囲気になりがちだったのに対して、私達は、理性と感性とを統合し、内面的な喜びや楽しみに満ちた平和運動を展開したいと願っている。これは、いわば「平和の術(アート・オブ・ピース)」としての、「和楽の運動」ないし「和楽の祭り」ということができよう。
これは、聖徳太子の17条憲法にも見られるような日本古来の「和」の思想を尊重しつつ、戦後の平和憲法における平和主義を新世紀に甦らせようという試みである。アメリカの新帝国主義に対して、アジアなどからも非戦の声を挙げることによって、新しい平和な地球文明の生成に寄与することが私達の願いである。新自由主義的・西洋中心主義的なグローバライゼーションに対しては、各文明・文化相互の承認と尊重に基づいた地球的・地域的(グローカル)な文明・文化を形成することが必要なのである。
平和の非戦ネットワークが、地球的平和を希求する仲間・同志達の友愛ネットワークとして展開し、全世界の平和志向のネットワークと連携して、地球に平和な公共世界が実現することを念願し、私達はここに「地球平和公共ネットワーク」を結成する。一人でも多くの地球公共民が参加され、この新しい運動が地球的平和の実現に寄与することを祈りたい。
2003年元旦
「公共哲学ネットワーク」有志
小林正弥・千葉眞
admin @ 11月 5, 2007