酒井啓子氏の発言(千葉大安保法制シンポ)

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以下に掲載するのは、2015年7月23日(木)に千葉大学で開催された「『安全保障関連法案』について考える緊急シンポジウム」における酒井啓子氏(法政経学部)の発言です。発言を起こしたものをご自身のチェックを経て、こちらに掲載をいたします。

法政経学部の酒井です。先ほどお話のあった学者の会ですが、それについては「安全保障関連法案に反対する学者の会」のホームページhttp://anti-security-related-bill.jp/を見ていただくとして、私は中東が専門なので中東の専門家として話をします。私の専門はイラクの政治です。なので、実際に自衛隊が国連じゃなくて国連の枠外で海外に派遣された唯一の事例が2004年、イラク戦争直後のイラクのサマーワへの派遣なので、今の安保法制の流れは、その続きで、イラクでうまくいったからもっと自衛隊の活動を海外に広げていいんじゃないかという、そういうノリがあるんじゃないかという感じがして、それはちょっと違うんじゃないか、という話をしたいと思います。

今日の配布資料の朝日新聞の一面(2015年5月12日)に、10個の法律を一括改正するという一覧表がありますので、それぞれの項目、そんな簡単にはいかないよという話をしていきたいと思います。まずそもそもこの法案の改正でよく指摘されているように、この改正の必要性の背景にホルムズ海峡が機雷封鎖されたらどうすんだということが理由にあげられています。ホルムズ海峡に機雷をまかれたら、日本は確かにペルシャ湾から石油を輸入できなくなる、困るじゃないか、という危惧は確かにありました。日本の石油輸入の八割が中東からで、そのほとんどがペルシア湾岸諸国からです。ただ、ペルシア湾に機雷が巻かれた、という事実が発生したのは1980年代です。つまり、イランとイラクが戦争をしていた時。イランが敵国イラクの石油を先進国向けに輸出させないように、ばら撒いたわけです。それに、当時戦争を早くやめたいイラクが先進国巻き込んで先進国に被害がでれば、先進国も戦争をやめるという方向でイラクに手をかしてくれるんじゃないかと考えて、ペルシア湾に危機をわざと高めた、という事情がある。要するに今の状況とは全く違う。なんといっても、いまやイラクとイランは密接な協力関係にある。両国が対立して、機雷を巻きあうなんてことは、イラク戦争後はありえない状況です。しかも、イランとアメリカの関係も、七月に核開発協に合意して、関係改善が進んでいます。

むしろそれに腹を立てているのがサウジアラビアなので、逆にサウジアラビアが機雷をまくかといえば、そうは思えないんですけれども、じゃあこの辺りで不穏な行動をする国はどこか、となると、「イスラーム国」(IS)なんですね。たしかにISは地域住民自身にとって大きな脅威ですから、なんとかしなければいけないってみんな考えているかもしれません。

けれども、アメリカだって絶対IS相手に直接対峙して対抗しようなんてのはリスクが大きすぎてできないと思っている。イラク戦争とアフガニスタン戦争で何千人の戦死者を出したわけですから、もう繰り返したくない。そんなときに、安保法制で日本が米軍を助けてくれるようになったら、これ幸いにアメリカ軍のかわりに自衛隊にIS退治に行ってもらおう、なんてことになるかもしれない。そうしたら、それはもうほとんど何百人の死人が出るっていう話です。もしそれを覚悟して、自衛隊を派遣して命をかけてISの被害にあっている人たちを守る、なんていうことならば、それはそれでいいと思うんですけれども、そんな覚悟、誰もできてないだろうと思うんです。

確かに、日本のために活動する米軍や多国籍軍を支援するために協力しなければいけないじゃないか、日本のために米軍が働いてくれるのにそれをその米兵が相手にやられているのを放置していていいのか、という話がさかんにされているわけなんですけれども、これまた、いまのISの例で考えてみましょう。IS相手に日本と米軍が一緒になっていたときに、米軍がやられそうになった、じゃあ自衛隊が米軍を助けに行かなければいけないということになった場合に、問題は、自衛隊がアメリカ兵を助けられるほどの能力があるのかってことです。良くも悪くも土地勘も経験もある米軍に対して、自衛隊はどう考えても新参者、もっと脆弱な存在、「ソフトターゲット」として写ってしまう。私がISの幹部だったら、この関係を利用して、アメリカと日本にプレッシャーをかけるために自衛隊を巻き込んで、自衛隊を人質に取るでしょうね。自衛隊を人質に、アメリカに圧力をかける。そうじゃなくても、世界中で一番身代金を高く要求できるのはたぶん自衛隊員なので、それを利用して最大限の政治的要求と金銭的な要求をして、世界を混乱に陥れるっていう、そんな戦法を考えるんじゃないか。そんなふうに自衛隊員がISに有効活用される、といったことが考えられます。

でも、自衛隊はやっぱり海外に派遣して戦後復興を行ったりして、それはそれで有意義なんじゃないか、と思われる方もおられるかもしれません。たしかに、イラクのサマーワに派遣された自衛隊は、まあそれなりに評価が高かったんです。現地のサマーワ社会で、日本人の部隊が来てくれてよかったという声がよく聞かれたわけなんですね。それはなぜ「良かった」と言われているかというと、自衛隊がサマーワに行ったは行ったけれども、何もしなかったんです。何もしなかったというのは、いいこともたいしてしなかったけど、とにかく人を殺すことはしなかった。現地の人々を殺すことをしなかった、ということが評価されたのが第一です。

でも別の「いいこと」もあった。自衛隊がイラクに駐留している時代というのは、外の、たとえば米軍にしてもイギリス軍にしてもポーランド軍にしても何にしても、駐留している軍隊はいずれも武装勢力から攻撃を受けた時代です。自衛隊も攻撃は受けたんですけれども、死者は出ませんでした。なぜ死者が出るほどひどい反発を現地社会から受けなかったか、というと、外務省をはじめとして政府が必死になって、ものすごい額のODAを平行して供与したんです。つまり、お金バラ撒いて、自衛隊には絶対手出してくれるな、と。その結果、サマーワという街には、橋も病院も修復されたりいろんなものができたわけなんですが、これは自衛隊のためではなくて、自衛隊を守るために日本がODAかけてやったという話なわけですね。そう考えたら、現地に感謝されるということのためなら、別に自衛隊出さなくてもODAでやれば済む。たぶんこの話をこうまとめると、「自衛隊を危険地に派遣してもらうとついでにODAがやってくるのでラッキー」という期待を、世界のあちこちで高めてしまうのではないでしょうか。

さて、そうはいっても武力を使わなければいけない危機的な状況が世界にはあって、それに対して何もしないというのはいかがなものか、と思われる人は多いと思うんです。確かにそういう危機はあります。私も国際政治をやっていると、武力まったくなしですべての物事が解決するっていうわけではないよな、と思うことはあります。実際に、中東ではたくさんの人々が命を失っているわけで命をかけて反撃せざるを得ない状況は確かにあります。

ですが、問題は、要するに、今回の一連の作業の中で外交が十分尽くされているか、ということです。外交が尽くされてないまま、軍事に話をもっていってしまっている、という問題があります。さきほどもいいましたように、紛争地の戦後復興に、わざわざ自衛隊とODAをカップルにして対応しているけれども、実際に機能しているのはODAなんだ、ということを考えると、ODAや外交活動でやれることってたくさんあるわけです。それを全部やり尽くして、それでもダメだから武力に頼るしかないんだ、という状況に今あるか、というと、そうではない、武力しかない、という状況にはまったく至ってないということが言えるわけです。

百瀬宏先生という国際政治の大家がおられますけれども、その先生が『小国論』という本をお書きになってます。彼がおっしゃっているのは、武力もろくに持たない、国力も大変小さい、そういう小さな国でも、外交で生き延びてきたって国はたくさんある。スカンジナビアの国々もそうですけど、大戦後のヨーロッパの国々の間には、外交活動だけで数々の紛争を止めてきた、仲介してきたという例はたくさんあります。なぜ日本にそれができないのか。よく武力も持たずに現地に行って「平和を」なんていうのは、そんな生易しいものじゃないぞと、お前殺されるぞというふうに言われますけれども、いや、それはできる。武力も持たずに現地に行って口先三寸で話をまとめてくるということは日本にはできるはずだし、それこそが外交力だと思うんですね。もしそれができないんだとすると、日本の知的レベルの情けなさ、あるいはコミュニケーション能力のなさ、ということになるんだと思います。そう考えると、みなさん学生さんが、語学や海外の地域研究や国際政治を十分勉強するということがどれだけ必要かということが、これでお分かりになるかと思います。

ありがとうございました。

 

fm @ 9月 9, 2015

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