原子力基本法改定およびその下の原発再稼働に対する反対声明

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野田政権は、紫陽花革命と呼ばれるように官邸前に集まる多くの人びとの声に耳を傾けず、7月1日に大飯原発3号機を再起動した。原発の再稼働については、少なくともその必要性と安全性が充分に確認されることが必要である。

しかし、大飯原発については、関西電力の夏のピーク時の電力需要が本当にどこまで不足しているかは必ずしも明確ではない上に、夏が過ぎたら再停止するという限定再稼働の考え方を、政府は電力価格の高騰などの経済的な理由以外の正当な理由なしに退けている。その上に、関西電力は燃料費の高い火力発電所を8基止めるという方針が報道されている。これらから政府や関西電力は経済的理由に基づいて原発を再稼働させたと考えざるを得ず、電力供給のためという必要性は疑わしい。

また、安全性については安全基準が暫定的なものである上に、免震棟や安全なオフサイトセンター、本格的な津波対策などの安全対策もまだなされておらず、さらに地下に破砕帯が存在し、周辺の活断層と連動して動く危険性も指摘されている。

そこで、この再稼働については必要性と安全性の両面が疑わしく、不正義の疑いが濃い。

さらに、政府は原子力規制委員会設置法で、この法律の目的と原子力規制委員会の任務に関して「我が国の安全保障に資する」という文言を盛り込み、この附則で、原子力基本法や核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律を改定し、やはり「我が国の安全保障に資すること」という文言を追加して、6月20日に成立させた。これに対して、“非核三原則を放棄したり、潜在的に核武装する能力を持つために核燃料サイクル政策や原発維持を正当化したり、将来の核武装に道を開くという意図があるのではないか”と疑われ、韓国など海外からも懸念の声があがっている。

政府はこれについて、国会の審議や附帯決議などに基づき「原子力規制委員会が原子力規制、核セキュリティ及び核不拡散の保障業務を一元的に担うという観点から規定された」と説明しており、原子力の平和利用という方針は変わらず、非核三原則を維持するとしている。しかし、少なくとも文面上は、「将来、核武装するために原発を保有・管理する」という解釈が可能になることは否定できず、仮に現時点では政府の説明通りであったとしても、将来の拡大解釈を許す危険性が存在することは否定できないと思われる。

現に自公案作成の中心となった塩崎恭久衆院議員は「核の技術を持っているという安全保障上の意味はある」と指摘し、「日本を守るため、原子力の技術を安全保障からも理解しないといけない。(反対は)見たくないものを見ない人たちの議論だ」と述べたことが伝えられている(東京新聞 2012年6月21日)。これでは将来の核武装を可能にする(潜在的核武装)ために原発を保持するということになりかねないのである。

これは、内容及び手続きの双方において、極めて大きな問題を孕んでいる。まず、日本の原子力発電は従来、原子力基本法第2条で「原子力の研究、開発及び利用は、平和の目的に限り行うものとする」と規定されており、平和利用のためのものとされていた。福島第1原子力発電所の事故以来、原発の危険性がより明確になり、現在、将来のエネルギーにおいて原発を用いるかどうかについて大きな議論が行われている。しかし、これはあくまでも電力のためであり、核兵器を保持するためではない。

これに対して、日本政府が原発を推進したのは、核武装を可能にするためではないかという疑問がかつてから投げかけられており、日米両国政府がそれを知りつつ核燃料サイクル政策などを推進してきたという指摘も存在する。そして、自民党の一部有力議員は、万一のために核兵器を保持するための潜在的核武装のために原発を放棄すべきではない、と主張していた。

この原子力基本法改正は、自民党から提案され、民自公の3党修正協議で合意して、すぐに採決された。6月15日の衆議院提出と同日にわずか2時間の環境委員会審議のみで通過し、参議院においても衆議院通過と同日の本会議質疑とわずか連続3日間の環境委員会の審議によって、実質的にはわずか4日間で成立した。メディアをはじめこの点の報道がなされたのは、すでに法律が決定した後であった。これは、民主主義の正当な手続きを無視しているので、非民主主義的な立法である。

また、手続きにおいても、「原子力の憲法」と言われる原子力の基本法を、原子力規制委員会設置法の附則で改定しており、これは手続き上、著しい瑕疵がある。そこで、この法律は、法的にも不当である。

そもそも、原発の再稼働およびその保持自体には、万一大きな事故が起こると、立地地域周辺をはじめ広い地域で、その他の地域に比して人びとの生命ないし健康に深刻な被害を与えるし、核廃棄物は将来世代にも大きな被害を与えることがありうるという点で、不正義である可能性が存在する。

その上に、原発維持が核武装を可能にするためであるならば、これは不正義と断定せざるをえなくなる。一国家の防衛のための核兵器の行使は不正義であり、そのために核兵器を保持することは正義に反する。これを許せば、核戦争が起こって、世界ないしその地域が破滅する危険性が存在するからである。核兵器を行使するだけではなく、その保持やその準備も許されず、その準備として原発を保持することも許されない。

これらは、広島・長崎の被爆という悲劇を体験した日本が、決して行ってはならない不正義の行為である。福島の原発事故によって被曝を体験した日本が、民主主義的な議論もなしにこれを契機に潜在的核武装のための原発再稼働へと舵を切るとすれば、これは言語道断の不正な行為である。

したがって、上記の原子力基本法の改定などによって、日本が潜在的核武装を行うことが可能になるとすれば、日本が原発を再稼働し保持することは、正義に反するといわざるを得なくなった。それゆえに、私達は、この改定された原子力基本法のもとの原発の再稼働に反対し、原子力基本法及び原子力規制委員会設置法、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の改正を求める。

2012年7月14日

稲垣久和(東京基督教大学)、小倉久延(コンサルタント)、小林正弥(千葉大学)、千葉眞(国際基督教大学)、本山一博(玉光神社権宮司)、吉田魯参(仏法山禅源寺住職)、樫尾直樹(慶応大学)、佐藤香織(東日本大震災・心の交流会)、三瓶愼一(慶応大学)、島田和子(JAIA )、澤田慎一郎(千葉大学学生)、高橋真理子(我孫子市民)、栗田禎子(千葉大学)竹内久顕(東京女子大学)、田中久雄(スウェーデン社会研究所会員)、平野慶次(京都市民)、松岡由美子、森中定治(埼玉県民)

ほか7月14日対話型集会「これからの平和・環境運動について考えようーー地球的核問題に対して結集は可能か」一般参加者一同

admin @ 7月 30, 2012

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